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東京高等裁判所 昭和42年(ネ)887号 判決 1967年11月30日

控訴人 亀広産業株式会社

右訴訟代理人弁護士 山田茂

被控訴人 富士商事株式会社

右訴訟代理人弁護士 藤森勝太郎

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴会社の負担とする

事実

<全部省略>

理由

控訴会社の代表取締役の一人である原俊一が振出人欄に控訴会社代表取締役原俊一と記名捺印した上、別紙目録記載の約束手形三通を、受取人欄白地のまま、アヅマ商事こと千葉大師に振り出し交付し、同人は右各約束手形を被控訴会社に交付して譲渡したこと、および被控訴会社は右各手形の受取人欄に被控訴会社名を記載し補充した上、これをそれぞれ各満期に支払場所に呈示して支払を求めたが、いずれもその支払を拒絶されたことは当事者間に争いがなく、被控訴会社が現に本件各手形を所持していることは、<証拠省略>被控訴会社の手裡に存することにより明らかである。

控訴会社は、控訴会社の代表取締役は原俊一および田代実の両名であって、右両名が共同して会社を代表すべき旨定められており、かつその旨の登記がなされていたものであるから、原俊一単独名義で振り出された本件各手形につき控訴会社が振出人としての責任を負ういわれはない旨主張するに対し、被控訴会社は、控訴会社の他の共同代表取締役である田代実は、原俊一に対し控訴会社の手形振出に関する権限を一般的包括的に委任していたのみならず、本件各手形の振出については田代実において事後承諾(追認の趣旨と解せられる)を与えているから、控訴会社は本件各手形の振出人としての責任を有する旨主張するので、この点について判断する。

本件各手形が振り出された当時、控訴会社の代表取締役は原俊一および田代実の両名で、右両名が共同して会社を代表すべき旨定められており、かつその旨の登記がなされていたことは当事者間に争いがない。ところで、共同代表制度の趣旨は、代表者相互の抑制によって代表権の行使を慎重ならしめその濫用を防止するとあるから、共同代表取締役の一人が他の共同代表取締役に対し、包括的に共同代表権の行使を委任することは、まさしく共同代表制度の趣旨に反し許されないものと解すべきものである。したがって、たとえ田代実が控訴会社の手形振出に関する権限を包括的に他の共同代表取締役である原俊一に委任し、原俊一が右包括的委任に基づいて自己単独の代表名義で本件各手形を振り出したものであるとしても、同人の本件各手形の振出は控訴会社の有効な代表行為ということはできないから、この点に関する被控訴会社の主張は右包括的委任のあった事実の有無について判断するまでもなく理由がなく、採用できない。しかしながら、上記のような一般的包括的な委任ではなく、特定の法律行為に関する個別的委任もしくは事後承諾は、共同代表制度を定めた趣旨に反しないから、共同代表取締役の一員が自己単独の代表名義でなした行為であっても、他の共同代表取締役の追認を得た場合には、会社の代表行為として有効なものとなるものと解するを相当とする。そこで、原俊一の本件各約束手形の振出行為について田代実の追認があったかどうかについてみるに、本件各約束手形の支払場所である安田信託銀行株式会社八重洲支店には原俊一の単独代表名義による控訴会社の当座預金口座のあること、および控訴会社の手形が、従来、原俊一の単独代表名義で振り出されて来たことは当事者間に争いがなく、右事実に、<証拠省略>を綜合すると、田代実は、本件各手形の振出後、原俊一からその報告を受け、同人に対し本件各手形の振出行為を承諾したこと、本件各手形の支払が拒絶されたのは、原俊一が共同代表の定めを無視して自己単独代表名義で振り出したものであることを理由とするものではないことが認められ、この認定に反する証拠はない。右の事実によれば、原俊一の単独代表名義による本件各手形の振出については他の共同代表取締役である田代実の追認があったことが明らかであるから、上記説示したところにより、控訴会社は本件各手形の振出人としての責任を負担すべきものというべきである。

控訴会社は本件各手形振出の原因行為は控訴会社の目的の範囲外の行為であり、原俊一の個人の取引行為と目さるべきものであるから、控訴会社には本件各手形の支払義務はない旨主張するが、右主張事実を認めるに足る証拠はないばかりか、前示認定の事実に徴し明らかなとおり控訴会社と被控訴会社とは本件各手形授受の直接の当事者関係になく、しかも被控訴会社が本件各手形を取得するに当り控訴会社を害すべき事実を知っていたことについては何らの主張立証も存しないのであるから、控訴会社の右主張はとうてい採用することができない。

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